4月1日(土)、「自然の中でおとなも子どもも音を楽しむ集い」が、伊陸ロンサムレディー号平和記念館まえ特設広場で行われました。春の清々しい陽気の中、大勢の人が訪れ、田んぼの中の会場でフルートとバイオリンのコンサートを楽しみました。

 バイオリニストのTOMOKOさんと旦那さんでフルーティスト(フルート演奏者)のMICHAELさんは、現在ドイツに住んでいらっしゃいますが、TOMOKOさんの叔母さんが伊陸在住という縁もあって、これまでも伊陸でコンサートを開かれています。また、お二人は、震災後のチャリティーコンサートを開いたり、「あしなが育英会」の支援などを行ったりしておられます。
 今回の「春こんさ~と」は、新聞で「伊陸ロンサムレディー号平和記念館」の事を知ったTOMOKOさんが、「青空の下、平和記念館の前でコンサートを行いたい。」と、平和記念館の武永館長に相談したのが始まりでした。
 広島出身でドイツ在住のTOMOKOさんは、平和への思いが強く、「平和を維持するためには努力しなければいけない。」と言われました。

 クラッシックや日本唱歌、ドイツでも人気の「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「もののけ姫」などのスタジオジブリの曲、日本の歌謡曲など様々なジャンルの曲、15曲を演奏されました。
 また、この日は、TOMOKOさんの誕生日が近いこともあり、ご主人のMICHAELさんがサプライズで、「Happy Birthday to You」をフルートで演奏され、会場の皆さんが合唱されました。
  演奏に合わせて口ずさむ人や指揮者のようにリズムを取る人、シートを広げてピクニック気分を味わっている人など、多くの人が思い思いの時間を過ごされていました。
 小学校低学年くらいの女の子が、お父さんの膝にずっと座っていました。その光景がとても微笑ましく思わず声をかけたのですが、お父さんは、「娘は虫が怖いんです。普段はこんなに膝に座ってくれる事はないんです。今日は、自分にとっても幸せな時間でした。」と、微笑んで言われました。これこそが、TOMOKOさんがやりたかった「田んぼの中のコンサート」なのだと感じました。
 TOMOKOさんは、ドイツのお土産のエッグチョコレートを配られ、子ども達はその場で美味しそうに食べていました。チョコレートの中からはカプセルに入ったおもちゃが出て来て、大きな歓声が上がっていました。
 青空の下、フルートとバイオリンの素敵な音色に癒され、約1時間半のゆったりとした時間を過ごすことができました。
 この日、皆さんから集められたご厚意は、TOMOKOさんを通じて「あしなが育友会」へ寄付されました。すべての子ども達に明るい未来が開けますように!

 

「伊陸ロンサムレディー号平和記念館」

 2023年1月に正式に開館し、入館無料、完全予約制で受け付けています。(Facebook『伊陸ロンサムレディー号平和記念館』で、開館日が確認できます。)
 
 1945年7月28日、太平洋戦争末期、B24爆撃機ロンサムレディー号が伊陸村(当時)に墜落しました。米兵7人が捕虜となり広島市の中国憲兵隊司令部に収容され、東京に移送された機長を除く6人が、8月6日、自国の原爆投下により被爆死しました。(墜落現場には、1998年に伊陸住民によって『平和の碑』が建立。除幕式には、故ロンサムレディー号機長が参列。)
 自国の原爆によって被爆死した米兵は他の戦闘機乗組員を含め12人いましたが、家族にその事実は伝えられず、彼らのための慰霊碑などもありませんでした。歴史研究家で自身も被爆された森重昭さんは、伊陸に何度も足を運び地元の人たちから当時の話を聞き、「ロンサムレディー号」の残骸も目にされました。40年以上調査を続け、遺族を探し出し、事実を伝え慰霊を続けて来られました。このことは、2016年にドキュメント映画『ペーパーランタン(灯篭流し)』で紹介されました。
 そして、この映画が米政府関係者の目にとまり、2016年5月27日、オバマ大統領(当時)が森重昭さんを抱き寄せる歴史的なシーンへと繋がったのです。このシーンを目にした富山県の画家 才田峰風さんは、「原爆を落とした国と落とされた国の人が抱き合う歴史的瞬間を描きたい。」と、感動を一気に描き上げました。そして、『平和の兆し』と名付けられたこの油彩画を、2016年7月、森さんに贈りました。
 
 『伊陸ロンサムレディー号平和記念館』館長 武永昌徳さんは、伊陸生まれ伊陸育ちで、地元の歴史を知り、森さんの調査に協力をするなど、交流を重ねて来ました。
 「米兵も戦争の被害者。戦争を二度と起こさないため学ぶ場が必要。」と考え、自身が所有するトレーラーハウスを改装して記念館を設立しました。設立を知った森さんは、大切に保管してきた『平和の兆し』を、「米兵たちの最後に関わる地で展示してほしい。」と寄贈を決めました。
 記念館には、『平和の兆し』の他、被爆米兵の資料や写真、爆撃機の破片などが展示されています。映画『ペーパーランタン』も観る事ができます。
 いろいろな人の思いが巡り、繋がってできた私設記念館に感慨深い思いがしました。